(総会・研修会報告)
居宅介護支援事業者研修会 第11回平成23年度事例発表会
日時 平成23年11月2日(水) 10:00〜16:00
場所 西区民文化センター「ホール」
参加者 410名
講演 「地域で、『その人らしく暮らす』を支援する」
講演講師 花園大学社会福祉学部社会福祉学科教授 福富 昌城 先生


■講演
<ポイント>
ケアマネジメントとは「種々のニーズを、制度化されているサービスやインフォーマルなサポート、さらにはクライアントの能力(内的資源)と適切に連携させて、クライアントのニーズを充足させる」援助の方法である。
クライアントの能力(内的資源)とは、▼できること(セルフケア能力)▼したいこと(意欲、希望)▼してきたこと(自信、自負心)
ケアマネジメントを行うのは、クライアントの自立とQOLの向上のためである。
マズローの欲求段階における、「生理的欲求」、「安全の欲求」については、ケアマネジメントのニーズと対応するが、次の「所属と愛情の欲求」、「自尊の欲求」及び「自己実現の欲求」は介護保険のニーズと対応してないことが多い・しかし、本人にとっては大事なニーズであり、介護支援専門員は共有したい。
ある調査で、「適切なアセスメントにより導き出されたケアプランが、利用者側から同意が得られず、実施できないケースがあるか」の問いに69.6%の介護支援専門員が「ある」と答えている。クライアントに何を「つなぐ」のか、何のために「つなぐ」のかが見えていない。クライアントの「思い」が見えてない現状がある。
利用者の「思い」が見えるためには、▼アセスメント力(情報を収集し、分析する能力)▼合意形成力(利用者の感じ、表明しているニーズと、専門職として分析・把握するニーズとの、合意形成を図る能力。つまり「話し合いながら、折り合いをつける能力」)▼関係形成力(援助関係を形成する能力)が必要である。
利用者の「思い」をプランに反映したいと、最初の面談で、必ず「あなたが一番大事にしていることは何ですか?」を聞くことにしている介護支援専門員がいる。
介護支援専門員は「調整」の専門職であると同時に、「相談」の専門職である。
2025年に構築目標の地域包括ケアシステムとは、「地域住民は、住居の種類にかかわらず、日常生活圏域(おおむね30分以内)に生活上の安全・安心・健康を確保するために多様なサービスを24時間365日を通して利用しながら住みなれた地域での生活を維持することが可能となっているシステムのこと。
介護支援サービスのアセスメントは、利用者の心身機能と不自由さに目が行きがちである。利用者の「望む暮らし」と「それを阻害している状況」まで視野に入れると、アセスメントが変わってくる。
介護支援専門員も地域包括ケアシステムの構築に協力を行う役割がある。介護支援専門員の役割は、▼本人を支える ▼家族を支える ▼インフォーマルな支援者を支える ▼サービス事業者を支える ▼支援ネットワークをつくる ▼地域包括ケアシステムをつくる。
「サービスを入れたことが大事ではなく」、「どのように判断したかが大事である」こと及び、ボランティア業務も含めてサービスの提供側にならないことを介護支援専門員はしっかりと自覚しておくべきである。介護支援専門員は、「つなぎ役」である。

その他、5つの事例を通して、介護支援専門員の備えるべき能力の解説を頂きました。▼聞き取る力 ▼見て取る力 ▼可能性を考える力 ▼望む暮らしを聞き取る力 ▼望む暮らしを見つける力 ▼一緒に考える力 ▼提案する力 ▼調整する力 ▼葛藤関係に際して、利用者の側に立つ力 ▼周囲を巻き込む力 ▼周囲を納得させる力 ▼周囲を変える力 ▼一緒に動く力 ▼支える関係(地域包括ケアシステム)を作る力

■事例
<安佐南区> 妻の強い思いに翻弄されながら始まった事例
いでしたケアプランセンター
門田 博史 氏
<安佐北区> チームアプローチで実践できた終末期ケア
にのみや居宅介護支援事業所
浜田 稲保美 氏
<安芸区> 家で過ごさせたいという家族の思いを踏まえた利用者支援
居宅介護支援事業所ビジテ
山野 福美 氏
<佐伯区> サービスの変更を繰り返しながら在宅生活でがんばっている利用者について
広島リプルケアー支援センター
藤井 まゆみ 氏
<中区> 医療職と福祉職の連携でサービス導入に繋がった事例
ニックス中居宅介護支援事業所
久浦 芳子 氏
<東区> キーパーソンのいない認知症高齢者の独居生活を支える事例
神田山長生園介護プランニング
塚本 裕美 氏
<南区> 独居高齢者の金銭管理への支援
ニチイケアセンター中央
三浦 靖 氏
<西区> 強い拘りがあり、サービス導入が困難な利用者の援助について
土谷居宅介護支援事業所西広島
足立 利一郎 氏

■総評
<ポイント>
発表者は、支援を行うことによる「現状」と「結果」の差を、しっかりと説明することが大事である。
発表者が事例報告を行う際に、以下のような視点で報告を行うと、焦点が絞れて、受講者の行う支援に応用が図れる。▼「良いケア」ができた、「良い結果」が出たので、その理由を考える ▼「まれな出来事」「珍しい事例」の紹介 ▼新しい工夫を紹介し、その成果を報告する ▼理論的に正しいケアを行い、成果を示すことで、その理論を証明する。▼事例の実践を振り返る
事例発表は、実践から得られた知見の情報発信活動であり、「事例」の暗黙知(主観的で、言葉で表現できない知識)を形式知(客観的で言語化した知識)に変換し、そのことにより、広く情報を共有化し、実務に役立てることが目的である。そのためには、出来れば、成功事例・終結した事例が望ましい。事例を「構造化」し、受講者は支援に応用することが大事である。もちろん、失敗事例も同様に応用可能である。
「構造化」することにより、似かよった事例に遭遇した場合に、スムーズな支援や仕組みづくりが可能となる。
「構造化」とは、▼研究の目的・意図 ▼構造 ▼研究方法・データ ▼支援方法 ▼結果若しくは教訓、の各項目毎に整理を行うことを言い、データベース化しておくとよい。

今回の8の事例についても、上記「構造化」して解説を頂き、各々の事例の特徴等を理解することができました。また、事例発表時の留意点についても、論理的に理解することができました。
(アンケートまとめ)
1.本日の講演・総評はいかがでしたか。254人
大変よかった 169人(67%) よかった 79人(31%) ふつう 6人(2%)
あまりよくなかった0人(0%)   よくなかった 0人(0%)  
2.本日の事例発表はいかがでしたか。251人
大変よかった 109人(43%) よかった 120人(48%) ふつう 22人(9%)
あまりよくなかった 0人(0%)   よくなかった 0人(0%)  
3.講演及び総評についての意見等(抜粋)
こんなに勉強になった研修は初めてです。福富先生、ありがとうございました。また広島に来てください。
先生のお話をずっとお聞きしたかったので、とても嬉しく、勉強になりました。ありがとうございました。総評もとても良かったです。
福富先生のお話は、具体的でとてもわかりやすかったです。また、是非、来広いただきお話の続きが聞きたいです。
午前の講演は、とても興味深く、先生の話の仕方も面白く、もっと色々なお話を聞いてみたいと思いました。また、午後の総評もわかりやすく、研究発表の面白さを知ることができました。私は高専賃の中にある居宅であり、フォーマル、インフォーマルのバランス等、とても悩んでいるので、そんな事例も聞いてみたいです。
先生の柔らかい京都弁の講演がとても優しく心に響きました。やはり多方面からのネットワークが必要だと痛感いたしました。
福富先生の講演は巧妙な語り口でスゥーッと頭と体に入ってきた。地域包括ケアシステム、私たちの住むところでは難しいかなと思っていたが、ひょっとしてできるかも、という木本が少しだけしてきた。
地域包括ケアシステムについて、具体例を挙げてわかりやすい説明で、より一層理解が深まった。詳しい事例の解説がとてもすばらしかった。ありがとうございました。
事例紹介がとても興味深く、自分の経験していない事を知ることができて大変良かったです。地域包括ケアシステムについても、事例を通して改めて理解ができ、良い機会となりました。
福富先生の講演は、ついサービスにばかり目を向けてしまう普段の思考を改めることができる良い内容を聞かせていただき参考になりました。利用者様の本当に望まれる生活を介護サービスだけ頼って叶えられるものではないことを改めて思いました。
事例も色々なケースがあり、感動しました。また、色々な支援方法があり、とても参考になりました。ケアマネジャーの役割や必要なことなど、とてもわかりやすく、新鮮な気持ちで聞かせていただきました。是非、また、先生の講演を聞きたいと思いました。
わかりやすく事例を挙げながらの講演でしたので、ケアマネジメントの役割と技術(関係構築力やネットワーク作り)の必要性がよく理解できました。総評もわかりやすかったです。
福富先生の講演がとてもわかりやすく、内容が即実践に使える、やってみたいと思う内容だった。ずっと身近に感じることができ、参加して良かった。ケアマネジャー6年目になったが、改めて自分の聞きとり方、アセスメントの姿勢を見直していきたい。
とても良い講演で、ケアマネジャーの基本に戻れたような感じです。
福富先生のご講演は、とても良かったです。どうしてもフォーマルなサービスに偏りがちですが、いかにインフォーマルが大切かで力を発揮するか、またアセスメントや判断力の大切さ、とても良い講義でした。
今後、事例発表する機会があれば、こんな事例を出せば良いのかなと考えながら聞くことができました。事例の支援方法→結果まで説明してくださり、今までの総評の中で1番受け止めやすかったです。
地域包括支援センターの職員として、今後の地域活動への関わりにおいての貴重な講演をいただきました。総評が理論的でわかりやすく勉強になりました。ありがとうございました。
ショートステイや釣りの事例を聞き、自分のケアマネジメントについて大いに反省しました。安易に介護サービスをあてはめてないか、本人の意向や希望に沿っているかどうかを考えさせられました。
地域、関係機関、多くの力を引き出すことができるか?そこに力量の差が出てくるように思います。一人で頑張るだけでは、駄目なんですね!
福富先生のお話は、ユーモアを交えわかりやすかった。総評も同じ事例を聞いたとは思えないほど掘り下げられていて良かった。
総評がとてもわかりやすく、感激しました。またお会いしたいと思います。
総評によって、事例発表がさらに深められたと思います。
講演も良かったが、総評はとても役に立ちました。物の見方、聞き方、受け取り方、参考になりました。
4.事例発表についての意見等(抜粋)
連携の取り方など参考にしたいことがたくさんあり勉強になりました。
医療職と介護職の温度差に私も悩んでいます。今日の発表を聞いて、医療職に負けないで頑張ろう!と思いました。「利用者がどうしたいか」を1番に考えて支援していきたいと、つくづく思います。
皆さん、正直にご自分の事例を発表され、清々しい思いがしました。パワーポイントの質も年々向上していると思いました。素晴らしかったです。
どの事例も身近に感じ、支援していくうえで、今後、役立てたいと思います。
皆様の事例を通し自分のケアマネジメントの振り返りや確認をすることができました。困難事例を聞いて自分も元気を持って頑張ろうと思いました。
色々な事例がありとても良かったです。ケアマネジャーとして悩んでいることも多く、少し気持ちが楽になりました。
私自身は、まだ2年目で日々の業務で一杯一杯ですが、先輩方が頑張っておられるのを聞いて励まされました。また明日から頑張ります。
それぞれ皆さん頑張っておられる様子が伝わり、大変なのは自分だけではないと思い、元気が出ました。
独居の方、認知症の方、コミュニケーション困難な方、またそのご家族。難しいなあと思うような事例や、そのような生活をされている人が大変多い世の中なので、ケアマネジャーの仕事はとても大変ですし、人間的な器の大きさや相手を受け止める柔軟な心、素直な心、またタイミング良く判断し決断する能力・・・色々な力が必要だなと思います。皆さんの事例は、大変謙虚に自分を振り返っておられ、素晴らしいと思いました。大変参考になりました。ありがとうございました。
年々、医療との連携がキーワードになる事例が多くなりつつあると思います。来年度からの地域包括ケアシステムも含め、他職種、地域との連携がますます重要になってくると感じました。
どの事例も皆さん、大変だったのではないかと思います。リプルの藤井さんは、ケアマネジャーを始めたばかりとのことで、今後も頑張ってほしいと思いました。私がまだ担当したことがないような事例が多く、今後の参考にしたいと思います。
パワーポイントのない事例もありましたが、私もパソコンが苦手なのでちょっとほっとしました。
いつか発表ができるくらいになれるよう、頑張りたいと思います。
事例検討よりも事例発表の方が勉強になります。
それぞれの事例をお伺いすることで追体験できました。現在抱えているケースに対応する上で参考になりました。もう少し事例ごとに詳細な支援過程と現状について発表していただけるとわかりやすかったです。
皆さんの貴重な経験を聞くことができ、良かったと思います。反面、もったいないような気もします。支援に行き詰っていた発表者さんは、何かヒントを得られたでしょうか?発表者、視聴者の自己満足で終わってないでしょうか。私自身も含めて、利用者支援にプラスアルファーしていくために、工夫、支援が必要だと思いました。
5.今後参加してみたい研修会テーマ
制度改正について
認知症について
認知症の方を支援していく上での地域との関わり方
高齢者に多い病気について
難病の方への取り組み、ターミナル看取り
主治医との連携の取り方
各サービス事業者の方々の意見をお聞きする機会があれば
訪問看護との連携
処遇困難ケースに対する地域包括支援センターとの連携方法
生活保護利用者の介護サービスの在り方、役所との関わり
面接技術
家族システムのとらえ方(年代別や世代別、地域特性)、近年の家族や社会システムの変化、今後予測される問題点や対応方法について等が学べる場があればと思います。
自宅訪問、モニタリングの技法や実際について
暴力、ネグレクトのケースがあれば、対応、支援等を聞き参考にしたい。
対人援助のスキルアップの研修
事例発表はとても参考になると思います。また研修に参加したいと思っています。
アルコール依存症、薬物依存等
法律について(原爆関係、生活保護)
介護保険サービスと公費(原爆、障害、生保、医療費制度等)サービスを組み合わせた利用の仕方について
地域包括ケアシステム
6.その他ご意見(抜粋)
ケアマネジャー歴の浅い者にもよくわかる内容になっていて、とても助かりました。ありがとうございました。