(研修会報告)
居宅介護支援事業者研修会 第14回平成26年度事例発表会
日時 平成26年11月5日(水)10:00〜15:30
場所 広島医師会館2階「大講堂」
参加者 229名
講演 「地域包括ケアに向けて、個別ケアから地域課題を」
講演講師 NPO法人 日本地域福祉研究所 主任研究員 國光 登志子 先生


【はじめに】
介護保険制度初年度から事例発表会を行っており、層の厚いケアマネジャーの実践を聞かせていただける機会と考えている。介護保険制度内でのケアマネジャー業務の検証をしていく中で、今、新しい課題に遭遇している。今後、ケアマネジャーのカリキュラムはどのように変わっていくのか?これから私たちが意識していくのは『地域』と考えている。「包括ケア」に向けて個別ケアから地域課題に目を向けなければならない。

1.「地域包括ケアシステム」
団塊の世代が後期高齢者となる2025年まであと11年…その間にしておくこととしては、まず、一歩ずつ踏み出すことである。
重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい生活を人生の最後まで続けることができる…この『住み慣れた地域』で、住み続けることができなくなったら『住み替え』を言われるが、生活はできていても、住み慣れていないのではないか?
困難事例に直面した時、ケアマネジャーとして『その人のその人らしさ』を忘れていないだろうか。大きな建前である『個人の尊厳の保持』のイメージは厳かなものである。ネガティブな特徴を挙げてしまうと支援困難事例となる。ケアマネジャー側は困りごとばかりである。プラス志向でストレングス(パワー・強み)を捉えていく意識はある。直接本人にケアマネジャーとして知りたいと、簡単なわかり易い言葉で伝える。『らしさ』とは、周囲の人も認め、自身も少し“はにかむ”ようなことである。ケアマネジャーは自分のことを認めて提案してくれる存在である。社会的生活機能では、ピタッと当てはまらないが、その人の特徴を認めて支援していく。
『住まい』は個別の次元で認め、最期(看取り)までということであり、『医療』は高度先進医療も含め、『介護』は専門的介護・介護支援・専門的なリハビリ等、『予防』『生活支援』が一体化(協働)していくことである。その一体化の中で「重度な人」に対しても、実践しシステム化していく。
サービス付高齢者住宅(サ高住)に基本的介護がどこまで含まれているのか。ケアマネジャーとして、サ高住の多様性を意識し、人が最期までそこで暮らしていけるのか“見極め”は必要である。また、介護支援はインフォーマルでの位置付けとなってくる。“助け合い”が地域の非常に狭い範囲の中でできれば良い。地域住民に近しいところで実践することは好ましい。
人口の動向としては、人口減少に加え75歳人口の急増、そして認知症高齢者が増加する。高齢者・障害者(身体・知的・精神・複合)も増加し、「新地域支援構想」として地域の窓口こそ全てを受け入れる必要がある。わざわざ縦割りにする意味があるのだろうか。窓口にそれぞれの担当者を配置し、専門的なことは繋げていく。国の資料ではなく、広島市・ブロックごとの具体的なデータを確認し、『地元の情報』を捉えて考えていこう。

2.「地域ケア会議」
窓口は地域包括支援センターであるが、広島市は動いているだろうか。
個別ケアマネジメントの流れである、アセスメント→ニーズ→ケアプランへの位置付けが日常的に実施されていない。サービスは足りているのだろうか。例えば、夜間巡回サービスはサイクルが短いが、医療の見極めがあって介護と医療の連携がある。中身の質と量も考え、不足な部分はボランティア会員等で行うインフォーマルなサービス・サポートも考えていく。経過記録や担当者会議の議題に挙げていくことで、ケアマネジャーはインフォーマルサービスの提案者になることはできる。これを仕組みとして細かく実施していくことで、地域課題として出して欲しい。どれくらい給付はあるのか、量的ニーズを把握すると共に、質的なニーズを把握し事例検討で検証していく。住民等の要望も含め、「本来こんなサービスがあると良いね。」というものを考え、事例検討は地域ケア会議に挙げても良いと思う。地域ケア会議の5つの機能を検索し、第6期介護保険事業計画に関心を持って欲しい。

3.「地域ケア会議と介護支援専門員」
地域ケア会議は高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備を同時に進めていく、地域包括ケアシステム実現に向けた手法である。
(1) 他職種協働で個別課題の解決を図り、ケアマネジャーの自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高める。『自立』って何?と意識すべきこと。自立・自律とは何か?一人ひとりを見定めて、サポート体制がマッチングしているか。
(2) 地域に共通した課題を明確にする。個別から全体の問題を見ていくことが必要であり、アセスメントが重要となる。情報収集は特に重要である。家族関係・生活暦等の情報が少ない現状がある。観察を意識した問題解決へ繋げ、可視化することは大切である。
(3) 地域の中で誰がキーパーソンになるのか。社会資源の目星をつけ、地域課題の解決に必要なことを発信することはケアマネジャーの努力義務の一つである。

4.「介護支援専門員の資質の向上は、第1に基本的機能をしっかり果たすこと(責務)、第2に努力義務における実績を認められ(やって地域で)評価されること」
(1) 家族関係の聞き方は自然の会話の中で行う。過去から現在の境目等、今まで以上に家族にシフトしていかなければならない。家族と本人の接点(絆)が回復できるところはどこなのか。直近の過去は特に大事なところである。現状から遡っていく。
ICFの視点である活動・参加を忘れていないか。環境因子(人と物)なら促進要因として近所を繋げていく。
(2) 「その人らしさ」を理解し、大切にする想いは利用者に伝わっていますか?「最小限度ここだけは…」と思うアプローチをし、利用者と一緒に考える。一人ひとりの生活状況を抑えたアセスメントは重要であり、本来求められているアセスメントが白紙であれば情報収集していないということになる。
課題分析標準項目の『(7)主訴』については、1回きりしか聞いていないケースもあり、初回、半年、一年と利用者の状況も変化し要望も変わっていく。「今の思いを聞かせて下さい。」と言ってみよう。『(15)社会との関わり』も利用している介護保険サービスのみが浮き彫りになるが、挨拶程度でも近隣の人はいるであろう。運営基準13条の第四号は努力義務であるが、使っているものは当然ケアプランに記載すること。

5.期待にこたえるために
公的法律も変化している。人材に対する教育指導のPDCAは利用者のケアプランと同様である。介護支援専門員研修カリキュラムの改訂も国が確定し、既に通知している。最新動向を正しく理解し、総合的な課題を見据えていこう。

【事例】
〈東区〉 年金が足りなくなり、食べる物もなくなる生活を送っていた一人暮らしの男性
〜地域で支えることの意味とは〜
  ニチイケアセンター向洋居宅介護支援事業所 河野 恵子 氏
〈南区〉 生命を優先した目標設定が糖尿病高齢者に精神的苦痛を与えた事例
−利用者QOLを高めることができなかったケアマネジャーの3つの課題−
  めぐみ居宅介護支援事業所御幸 鹿見 勇輔 氏
〈西区〉 「自分の思うままの生活を送りたい」と願う独り暮らしの支援についての一考察
〜スーパービジョンを受け、気付きから学んだ支援とは〜
  もみの木居宅介護支援事業所 豊田 由貴 氏
〈安佐南区〉 災害発生時の居宅介護支援事業所の利用者支援
  居宅介護支援事業所 川内の里 筌口 善彦 氏
〈安佐北区〉 老老介護における役割を重視したケアマネジメントの必要性
  なごみの郷居宅介護支援事業所 石川 真之介 氏
〈安芸区〉 自宅で過ごしたいという本人の強い思いを支援した事例
  居宅介護支援事業所 こころ 三浦 弘 氏
〈佐伯区〉 居宅生活の継続を目指して家族・医療・サービス事業者で取り組んだ事例
  陽光の家居宅介護支援事業所 小見山 智里 氏
〈中区〉 身寄りのない高齢者が最期を迎えるまでの支援について
  居宅介護支援事業所・ピース 吉田 由貴子 氏

【総評】
一つひとつの事例についてコメントをいただきました。
ゴミだらけの居住環境の中で苦労しましたね。ケアマネジャー・関係者が今後も関わる中で出てくるのが“お金”のことだろう。今後継続してどこまでできるのか。「ニーズ」として、計画的に必要なお金を使えるようになること、つまり社会的に大人になることであろうが、ニーズを充足する社会資源は未だなく、生計維持していくものとしての地域の課題であろう。社会資源を上手く導入しながらサービス提供した事例であり、良い人が周囲を取り巻いている上での本人の社会参加(訪問介護利用料金を事業所へ支払いに来るようになった)へと構築されていると思います。
治療へ着眼したことがケアマネジャーの反省となった事例であるが、血糖値の数値が良くなったのは、(1)自分は何がしたいのか…目標の設定と(2)利用者に関わるチームの関わり方を変えたことである。課題の優先順位については、生命に関わることも優先させるが、QOLを満たすために医療を手段とした。自己実現は大事であり、ケアマネジャーとして軌道修正し、優先度を考え直してみたという力強いメッセージを感じました。
ストレングスに目を向け、エンパワメントになった事例。ケアマネジャーとしてA氏に寄り添う頻度が高くなり、「自分らしさ」を引き出すきっかけとなった。事業所の所長同士の有志関係で合同事例発表会を開催し、投げやりな態度をとるA氏の事例を投げかけ、スーパービジョンを受けた事例。同じ事業所の中でもケアマネジャーの差があり、どこまで何をするのか、どんな時に検討会を開催するのか、批判でなく提案するよう事業所内で一定のルールにすべきと思います。
ケアマネジャーは個人のアセスメントから必要な支援を行う。時間が変わると支援内容も変わるので柔軟性も必要。災害発生から状況が日々変化する中でペア体制をとった事例。被災者のケアマネジメントはケアマネジャーだけでは担えない。経費の問題もある。要介護状態以上にきめ細かさが必要となるので、集合体で関わっていく。精神的なダメージも突然に襲ってくるので、メンタルヘルスは個別・地域として発信していくことも必要と思います。
「介護負担の軽減」により、夫の“らしさ”は一つひとつ丁寧に責任感を持つ頑固さもあったが、サービス利用により夫の生きがいややりがいを無くし、認知症発症した事例。家族は重要な役割と考える。利用者本人の意向を踏まえてサービスの選択をする。モニタリングやアセスメントは「本人及び(and)家族」である。一緒に生活している家族の自己実現も見ていく必要があると思います。
いつまで在宅生活ができるのか?今が限界なのか、根っこの話をしたことがあるか?自宅で生活し続けたいと思っている事例だが、家族との関わりとしてモニタリング訪問とは別に弟に会っていきましょう。
新人ケアマネジャーとして、2回目の1ヶ月レスパイト入院はショートスティの方が良かったのか…迷うこともあった。地区の勉強会等に参加し、ヒントを得ながら成長していけると思います。
必要なものは各関係機関へ連携すること。情報収集し、主観的なものだけでなく、分析していかに発信するかである。看取りを含めて、予想以上に最期が早く来た時、どこまでが限界か医療スタッフと共に考えていく。音信不通である親族関係については生活保護ワーカーが公の目的であれば捜索権を持っている。誰が情報を持っているのか、持っている情報を教えてもらうと良い。公の機関同士が密接に繋がることも必要であり、地域の課題と考えます。
【総評】
各ケアマネジャーの8事例について、まだ発展途中の方もおられますが、目に見えない思いを繋げていった事例と思います。
 
(アンケートまとめ)
1.本日の講演、総評はいかがでしたか。(回答数183人)
とても参考になった 86人(47%) 参考になった 88人(48%) ふつう 7人(3%)
あまり参考にならなかった 1人(1%)   参考にならなかった 1人(1%)    
地域包括ケアを言われている中、私たちケアマネがどのように関わるべきか少し理解できたように思う。今後、情報発信していきたい。
本来、ケアマネジャーが行う業務のなかにインフォーマルサービスの活用と発掘がある。今、包括と連携し、現状把握と必要なサービスを見つけ、どこに発信し、創っていくかを行っている。ケアマネジャーとして自分がやらなければならないことが、分かりやすく説明していただけた。総評もとてもよかったです。
最新の情報が聞けて良かった。CMの責務を再認識した。
最新の動向を正しく理解していくことが大切である。
今後の地域としての関わりの一員として、考えるだけでなく行動しなくてはと感じた。
これからの介護保険の方向性や、地域の必要性、ケアマネジャーの位置づけがよく分かった。
CMに求められていることは幅広く、単なるサービス調整役であってはいけないとあらためて思いました。
新地域支援構想の話は初めて聞くことで、勉強になりました。今まで聞いたなかで一番分かりやすく「地域包括システム」の説明が聞け、國光先生の話はとても有意義でした。
自分の地域での資源の開発を考えていきたい。
介護支援専門員の役割について、あらためて考え直せた。講演で最新の社会の動向をお知らせいただいたのが良かった。ネットで確認してみようと思う。
インフォーマルな支援の活用も増やせる支援をしていきたいと思った。
すごく分かりやすく、今後の仕事に活かしていきたいと思います。説明が具体的であり、学びやすかったです。
2.本日の事例発表はいかがでしたか。(回答数187人)
とても参考になった 73人(39%) 参考になった 108人(58%) ふつう 6人(3%)
あまり参考にならなかった 0人(0%)   参考にならなかった 0人(0%)    
とても参考になった。特に災害時の対応については、自分の事業所でもマニュアル、システム作成を急ぎたいと感じました。
皆様、お忙しい中分かりやすくまとめられて感心しました。
“その人らしさ”がどの発表にも含まれていたと思います。会話の中で、また会話以外の奥の奥にある本心を読みとれるケアマネジメントをしていきたいと思います。
すべての事例がとても分かりやすく、利用者さんと息づかいが分かるような報告内容だったと思います。多様なケースを知ることは、今後のケアマネ業務を行ううえで、財産になると思います。
ケアマネの皆さん、同じ苦労、失敗をしていきながら頑張っているのが分かり、自分もまだまだ頑張っていかなければという力をもらいました。
どの事例もケアマネの涙ぐましい努力の経過が伝わってくるが、もし違うケアマネだったら…と思うと、ケアマネの責務は重大だとあらためて痛感した。午前の講演にもつながる資質という面でスキルアップしなければと感じた。
災害発生時等、何の準備もしていないため、今回あらためて考えなければと思った。
災害の事例など、参考になり、事務所で共有したいと思う。
自分1人で抱え込まず、関係機関、先輩に助言をいただくことが大切と思った。
日々のモニタリング訪問時の対応について反省することが多く、参考にしたい事例が多かった。
発表の方法を工夫されていて、事例の概要がつかみやすかった。自分が担当しているケースと比較しながら検討することができた。
いろいろなパターンの事例の勉強ができた。利用者家族の要望ばかり聞いてはいけないと思った。
緊急時、災害、身寄りがない等、とても勉強になり、気付かせることが多かった。今後の支援に繋げていきたいと思います。
3.今後、参加してみたい研修のテーマやその他意見等(抜粋)
コーチング
個人情報について、広島市とCMとの間で統一的見解を徹底討論する機会を作っていただき、新しい介護計画に反映してほしい。
ACPについて
第15回も実施していただきたいと思います。
介護保険制度の改正について
認知症のケア
医療との連携
居宅における災害対策マニュアルの策定について
障害者支援との連携について知らないことが多いので、研修の機会があればありがたい。
ターミナルの方への支援方法