(研修会報告)
居宅介護支援事業者研修会 第16回平成28年度事例発表会
日時 平成28年11月9日(水)10:00〜15:40
場所 広島医師会館 2階「大講堂」
参加者 289名
講演 「適切なケアマネジメント手法について 〜介護支援専門員における課題〜」
講師 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 齊木 大 氏


【前置き】
現在介護保険を取り巻く状況は、高齢者数の増加に伴い認定率のアップ、予防対象者の増、アクティブシニアの減が推定される。このままでは介護保険サービス費用額の増加、保険料の増加が加速することとなり、10年後を見据えて自助を充実させる、使い勝手の良い手ごろな値段のサービスの開発、生活サービスの手頃番を作っていく必要がある。

◆ 公演のポイントとして
昨今の情勢を踏まえて現在介護保険部会では、ケアマネジャー数が増えたことことに伴う職域内での個人差が大きくなっていること、マネジメントすべき対象サービス/情報が増えていること等を背景に、ケアマネジメントに関して、利用者負担をどう考えるかに加え、「ケアマネジメントの標準化」「市町村への権限移譲への取組み」等が議論されている。
ケアマネジメントの「標準化」とは「ケアプランの標準化」ではなく、あくまでもプロセス及びそこで確認する項目の基本を確認することにある。たくさんの経験の中での実践を理論化、その理論に基づくチェックリストや考え方を実践現場で運用するという「二つのサイクル」を回し続けることにある。実践なき理論は無力、理論なき実践は暴力と言うことわざのとおり、二つを回すことで質は高まる。
介護保険におけるケアマネジメント業務が社会化したことは評価されるが、介護保険制度の運営が財政面、人材面からも逼迫する中、より高いレベルのケアマネジメントが要求されるようになった。ケアマネジメントは「個別支援」の要素と「地域づくり」の要素が含まれ、つなぐマネジメントが期待されている。

◆ ケアマネジメントに関わる次期改正に向けての検討課題
@ 介護保険の理念である自立支援の考え方が十分共有されていない。
A 利用者像や課題に応じた適切なアセスメント(課題把握)必ずしも十分でない。
B サービス担当者会議における他職種協働が十分に機能していない。
C ケアマネジメントにおけるモニタリング、評価が必ずしも十分でない。
D 重度者に対する医療との連携がかならずしも十分でない。
E インフォーマルサービスのコーディネイト、地域のネットワーク化が必ずしも十分できていない。
F 小規模事業者の支援、中世・公平性の確保について取組みが必ずしも十分でない。
G 地域における実践的な場での学び、有効なスーパーバイズ機能等、ケアマネジャーの能力向上の支援が必ずしも十分でない。
H ケアマネジャーの資質に差がある現状を踏まえると、実務研修受講試験の資格要件、法定研修のあり方、研修水準の平準化などに課題がある。
I 施設におけるケアマネジャーの役割が明確でない。

などが上げられ、ケアマネジメント手法の標準化、事業所運営基準の見直し、適正業務を確保する方策、利用者負担の導入、市町村や地域包括支援センターによるケアマネジメント支援などが論議されている。平たく言えば、ケアマネジメントのばらつきに対して最低限の底上げ、平均値の底上げを、最低限を何とするかを考え(適切な=平均値)持ち上げる仕組みを作ることである。

◆ 今後の制度見直しにおける議論のポイント
@ 健康増進、介護予防、重度化防止
A 生活支援部分は「自助」「互助」へ
B 出来る限り最後までの在宅生活の維持
C 介護サービスの生産性向上
D サービスの質に応じた負担の見直しが議論

都市部と地方においては、人口構成や社会環境の違いが大きく、地域の実情を考慮しての議論が必要である。生活支援の部分を「自助」「互助」への移行をいかにしくみを作っていくかが大切。施設キャパ、人材不足の問題からも出来る限り在宅生活を継続させることが必要で、介護サービスの生産性の向上が必要となってくる。

現在厚生労働省で議論されている内容を、たくさんの根拠資料を基にわかりやすく説明いただき、又、今後ケアマネジャーとしてどうあるべきか指針も示していただいた講義であった。

【事例発表】
〈佐伯区〉 医療と介護の連携により自宅で過ごしたいという本人の思いを支援した事例
  湯来まつむら居宅介護支援事業所 有馬 裕則
〈中区〉 信頼関係から馴れ合いの関係による盗難疑義 〜金銭トラブルになった独居高齢者の支援をとおして〜
  ニチイケアセンター千田町 山田 勝也
〈東区〉 任意後見人による、金銭トラブルが発生し、契約解除に至った事例からの一考察
  あけぼの寿老園居宅介護支援事業所 平川 慶子
〈南区〉 経済力があり医療と介護の包括的な支援をうけている事例からの一考察
  居宅介護支援事業所ひらまつ 水野 剛
〈西区〉 利用者と介護者である病気を抱えた弟の在宅生活を支援した事例
  サザン薬局居宅介護支援事業所 村山 典子
〈安佐南区〉 妻への暴言・暴力がある精神科受診拒否の利用者とその介護に限界を感じている家族の支援に苦慮した事例
  協同診療所居宅介護支援事業所 縄手 知美
〈安佐北区〉 心不全手帳による連携で在宅復帰できた事例についての一考察
  なごみの郷居宅介護支援事業所 中村 静香
〈安芸区〉 家族からの心理的虐待から自分の生活を取り戻した認知症・独居の支援
  居宅介護支援事業所アイビーロード 児玉 京子

【発表会総評】
どの事例も皆さんの深いマネジメントがなされていると感じた。
日々のマネジメントが大切であることは伝えた通りです。ITやAIの実用が迫ってきている中で、適正なケアマネジメントの実践、積み重ねとその分析にこそケアマネジャーの必要性がある。実践から理論を組み立てることこそケアマネジャーしかできないことだと思う。本日のような事例の共有は非常に大切なこととなる。広島市でこれが実践されていることは非常に良い事です。
最後に明日からのケアマネジメントに生かしていくキーワードを伝えます。

@ 信頼関係とそして説明と同意
A 集中的・的確な治療・医療
 必要なときに的確な入り方ができる
B 関係性への支援(家族・地域)
 ソーシャルワークの領域だが重要となる
C 他制度、保険外サービス
 情報を知る
 相談できる体制作る
D チームビルディング
 チームとは家族、地域を含め、この関係性を作る
 作り方はツール(心不全手帳など)いろいろあったはず

 
(アンケートまとめ)
1.本日の講演、総評はいかがでしたか。(回答数233人)
とても参考になった 117人(50%) 参考になった 106人(45%) ふつう 6人(3%)
あまり参考にならなかった 2人(1%)   参考にならなかった 2人(1%)    
意見等(抜粋)
将来のCMの役割・ビジョンが見えた。現在の活動とは違った事(啓発活動など)を大切にしていきたい。

今後の介護保険制度やケアマネジメントへの課題やその根拠を学ぶ事ができて良かった。

ケアマネジメントプロセスの標準化の話が実現すればいいなと思った。個別的なケアプランに時間を割けるようになればいいと思った。
統計による分析を聞かせていただき、今後の方向性なども把握できました。参考にしていき、取り組みたいと思います。
個々の足りない資源や必要な資源を発信していくことが必要と感じました。
医療と介護の連携方法や支援過程での介護支援専門員の考えや苦悩等よく伝わった。
目の前の業務に精一杯の毎日の中、広い視野での手法の話を聞くことができ、経験不足な業務経験年数ですが、励みになりました。
これから改正がある介護保険制度について知ることができ参考になりました。
地域の分析が必要だと思うが、何について何をどのように調べれば良いのか分かりません。
保険外サービスの必要性について分かりやすく勉強になった。誰が何をみつめるかで答えはでるのではと思いました。
総合事業について、まだわからないことが多いので学びたい。
データ化、見える化するなど、とても参考になった。情ばかりではなく数値で確認しながら業務を考えていきたい。
もりだくさんの話が非常に理解できた。資料の説明、根拠、すごく良い切口だった。もと色々と話を聞きたかった。
2.本日の事例発表はいかがでしたか。(回答数231人)
とても参考になった 99人(43%) 参考になった 114人(49%) ふつう 16人(6%)
あまり参考にならなかった 1人(1%)   参考にならなかった 1人(1%)    
意見等(抜粋)
在宅での問題点やサ高住での問題等、色々な視点からの問題を聞くことができた。
最後の事例の「地域で支えていこう」という地域の人たちの思いに感動しました。このような地域作りを目指していきたいと思いました。
困難な事例を知る事で、自身の担当しているケースの参考にしたいと思いました。
前半は、同事業所内の連携の事例がありました。サ高住では、グレーゾーンでの関わりがあるが、どちらも利用者本人には心強い支援につながると思う。しかし、金銭面や利害関係が発生しがちなので、適切なケアマネジメントをしていきたいと再認識。
本人の強みを引き出して、うまく家族と関わりをもち社会資源として位置づけられている事例など、とても勉強になりました。
心不全手帳など、とても参考になりました。
困難な事例を一生懸命対応されているのに感心しました。
チームを作るパターンを色々知りました。今後の支援に役立てていこうと思います。
成年後見制度や虐待事例など自分の経験の無い事例だったので参考に聞かせてもらった。
家族や地域の強みで利用者が自立していく経過に感動しました。先入観を持たず限界を勝手に決めず、インフォーマルな強みを発掘していきたいと思いました。
後見制度の問題点や心不全手帳の有効性を知り大変参考になりました。
発表者の事例を聞き、それぞれ苦労や努力されている部分、いずれもその事を文章にし、さらに発表をされる事を素晴らしく思いました。また、どの事例も他職種の連携、医療との連携、家族の支援、素晴らしいと思いました。
3.今後、参加してみたい研修のテーマやその他意見等(抜粋)
介護予防に入る前の支援や活動の実際などを学びたい
CMとして知っておいたほうが良い介護保険以外のことも勉強したい
医療の知識を学びたい
広島市の総合事業について分からないことが多く勉強していきたい
インフォーマル資源の共有と作った成功例
総合事業、サービス別のアセスメント、プランニングなど、それぞれの一連の流れについて
根拠法令に基づくケアマネジメントプロセス
虐待、暴力、生活困窮、後見人制度について
ICF活用について
地域資源について応用等
低所得の方の対応
障害、精神等の制度
療養管理指導による生活保護が図られたケースがあれば聞いてみたい
権利擁護について
ケアプラン自己作成指導法