(研修会報告)
居宅介護支援事業者研修会 第17回平成29年度事例発表会
日時 平成29年12月6日(水)10:00〜15:30
場所 広島医師会館 2階「大講堂」
参加者 236名
講演 「実践研究の意義と方法」
講師 日本ケアマネジメント学会 副理事長 福富 昌城 先生


【講演】
1.実践研究の意義
 実践家が研究することの大切さ
要介護者の生活支援では、エビデンスになっているものが少なくない。しかし、実践の中で、介護支援専門員が工夫している支援法で有効なもの(実践知、臨床知)がある。それに「コトバ」に置き換えて、他者に伝えることによって、一人の凄腕の実践者の人芸でなく、その職に就いていることが実践が共有する知(形式知)にすることができる。

2.実践研究の方法
◆事例研究の考え方
事例研究では、成功事例を扱う。対応が難しかったり、援助に工夫したけれども、その結果として援助が上手くいった場合、成功事例は研究に値する事例である。事例研究をして、その成果の理由を明らかにすることは、今後の援助に役立つ知識を得ることになる。また失敗事例を研究し、教訓や克服すべき課題を抽出することもある。
対応が難しくて悩んでいる事例については、事例検討会やグループ・スーパービジョンに出して検討する。

◆実践と研究のちがい
実践は、よい実践を「する」「できる」ことがポイント。頭の働かせ方は、原理原則→具体的に実行。研究は、実践が「よいものか」「よいとすればなぜ良いのかを説明」できることがポイント。頭の働かせ方は、行われた実践→原理原則を見つける。

◆アウトプットを意識して取り組む
1)研究目的
事例研究において事例は「素材」、何を明らかにするために、「事例を分析」したのかをしっかり考えて書くことが大切。通常は「研究目的」があって「研究方法」「結果」「考察」 になる。しかし、実際には「事例(の利用者)の援助を行なった」ことの「結果(よい援助できた) 」が分かったから、「発表してみよう」と考えた。このような場合、分かった「結果」から逆算して「研究目的」を再設定することもあり得る。

2)研究方法
倫理的配慮について、データ収集方法や分析方法を記載する。

3)研究結果
「事例の概要」と「支援経過」を簡潔にまとめる。

4)考察および結論
事例を分析して、何が分かったか、何が明らかにできたかを書く。
「その研究をした意義はどういう所にあるのか」を説明する。
「そのモデル(研究から提示できた見方、考え方)を通して事象を見たときに、どのように実践における認識が変わるのかを示す」
「その研究の限界を示す」

◆事例研究のプロセス
@着想を得る段階、「この事例は何か大切なことが隠れているように感じる」事例との出会い
A事例を書きだす
B研究の焦点を絞る
C関連する情報を集める
D得られた情報をもとに、事例の中に隠れている大切なことを言語化する
E結果の解釈、レポート・論文の執筆となる。
BCDを行きつ戻りつしながら「この事例の中に隠れている大切なこと」を見つけようと努力する。

◆事例から何をつかみだすか
成功事例の中には、他の事例にも役立つ「大切なこと」が隠れている。それをつかみ出して、他者に示すのが事例研究である。

【事例発表】
〈安芸区〉 健康管理の課題を多くもつ病識のない独居の利用者に対し、
入院を機に医療連携によって必要と考えられる支援を開始していった事例
  瀬野川居宅介護支援事業所 中林 熱範
〈佐伯区〉 一人暮らしの認知症高齢者を支援して
  コープ五日市居宅介護支援事業所 松井 拓也
〈中区〉 本人家族に寄り添いながら信頼関係を構築した事例からの一考察
  ケアプランセンター虹の橋 立山 勲矢
〈東区〉 住み慣れた地域で自分らしい生活を実現する為に本人とその家族を支援した事例
  ありす居宅介護支援事業所 益田 美夏
〈南区〉 地域住民による 見守りネットワークの構築に関する事例
―地区社会福祉協議会圏域の地域課題の発見とケアマネジメント実践―
  めぐみ居宅介護支援事業所御幸 鹿見 勇輔
〈西区〉 癌末期で極度な病院嫌いの本人と本人の家族の揺れ動く思いに寄り添いした事例
  ベネッセ介護センター広島 西本 幸恵
〈安佐南区〉 セルフネグレクトにおける、本人の行動変容にこだわらない支援について
  西田ケアマネ事務所 西田 英俊
〈安佐北区〉 自己欲求の強い利用者と家族支援の継続に苦慮した事例
  居宅介護支援センター菜の花 大下 和麻

【事例発表総評】
実践の振り返りができており、伴走型支援、解決思考型支援など深いマネジメントになっている。
効果的な事例研究にするためには、研究目的と結論の関係を常に意識し、「考察の核となるポイントに合わせて支援経過を整理」していくと、よりわかりやすい事例研究発表となる。
参加者にも大きな役割がある。「なぜできたのか」「どの様にアプローチしたのか」「伴走型の支援ができたのはなぜか」「入院を決心できたのはなぜ」など、会場の参加者が適切な質問をすることで、さらに内容の濃い事例発表会になる。
介護支援専門員は支援過程のなかで、意識的に相談援助技術の基本である「バイスティックの7原則」を使ってもらいたい。
研究発表が上手くなりたいなら、絶対にしなければならないことが二つある。たくさん研究発表を聞き、たくさん発表することである。

 
(アンケートまとめ)
1.本日の講演、総評はいかがでしたか。(回答数197人)
とても参考になった 104人(53%) 参考になった 89人(45%) ふつう 4人(2%)
あまり参考にならなかった 0人(0%)   参考にならなかった 0人(0%)    
意見等(抜粋)
ケアマネジメントの質の向上、自身のスキルアップのために実践研究、発表の機会はとても重要だと感じた。

事例についての研究目的と結論への結びつきについて特に注目をしました。業務の中でそのような視点でも考えながら関わることで、ご利用者様の思いを理解することにもつながると思いました。総評でのポイントや質問に対する意味を学ばせていただきました。

苦手意識のあった事例発表だが、経験の未熟な自分の今後の支援に生かせるものもあるため、積極的に参加していきたいと感じた。
実践研究についての講義を聴くのは初めてだったが、とても分かりやすかった。今後、事例研究をする時の参考になった。ケアマネジメント業務を行う上で、とても勉強になった。
事例研究の実践と方法について、とても参考になりました。以前、事例発表、ケアマネジメント研究会でも発表させていただいたことがありますが、その時を振り返り、足りなかったことや、取り組む際に今回のような講義を聴いていれば、もう少し上手く整理できていたように思い、再度取り組んでみたいと思いました。
時間が少なく資料全てに対して講義が受けられなかったことが残念です。事例研究・発表に際し、どのような点に留意すべきなのかがよく分かりました。
「研究」にこれまであまり認識を持っていなかったが、それを行う意義が分かってきた。
実践研究について、分かりやすく説明してもらえて良かったです。話の中であった揺れ動く気持ちを織り込み済みとして支援に向き合う事例について聴いてみたいと思いました。総評で、どういう話をしたか等、一番聴きたい部分についてすごく良かったです。「聴く側も一緒に作り上げる」難しいけど意識しようと思います。
2.本日の事例発表はいかがでしたか。(回答数207人)
とても参考になった 105人(51%) 参考になった 96人(46%) ふつう 6人(3%)
あまり参考にならなかった 0人(0%)   参考にならなかった 0人(0%)    
意見等(抜粋)
日々のケアマネジメントの中で、発表者がどのような視点をもってどのようなアプローチを行い実践してきたか、とても参考になりました。
一見、困難事例であろうと思われる利用者さんへのアプローチ等、大変参考になりました。
周囲の家族や地域、サービスとの連携を密にすることで良い結果となった事例を通して自分の対応のヒントになった。
まだの経験の浅いケアマネにとって、こうした多様な事例における多様な関わり方、事例報告は大変興味深く、今後、自身の実践につなげていけたらと思います。
事例発表の中に、現在、自分の担当ケースに似たようなものがあり、とても参考になった。自分の主観で支援していると感じ、本当に利用者のためになっているのか疑問に思っている。
全事例を通して感じたことは、本人、家族の意向によりそうことが大切であると改めて感じました。
8事例の発表があり、それぞれの支援、アプローチ方法を聴けて良かった。1人暮らしの認知症高齢者や病院嫌いなどのケースがあるので、とても参考になった。
地域づくりの事例には、ただただ感心しました。また、セルフネグレクトの事例も、ほど良い距離作りで支援されていて、そのようなスタンスを取るのも参考になりました。
ケアマネの思い込みで支援を行う事が本人の負担になり、信頼を失うことにつながりかねないと思いました。本人に寄り添うことを忘れないようにしようと思います。
価値観を押し付けず、自然体で支援する余裕が大切だと感じました。
以前の発表に比べ、ケアマネジメントの技術や自身の性格を見据えた接し方をされていると思いました。
3.今後、参加してみたい研修のテーマやその他意見等(抜粋)
精神疾患の方(うつ病)への関わり方。
本人と家族がケアについて対立していることがあった場合、ケアマネに求められる役割。
タイムマネジメント。
福富先生の講演をもう少し聴きたいです。
難病・在宅支援のプロセスと介護計画(サービス調整)の具体例。
若年性認知症の方に対する支援や家族への支援について。
困難事例に対しての成功事例ケース。
医療連携について。
改正と動向。
尊厳死、安楽死の是非と日本における現状について。
服薬できない方の服薬方法など。
権利・擁護についての具体的な活用手段、流れについて。